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《テーマ6》預金担保提供者の保証拒絶

 Aさんから、Aさんの父Bさん名義の定期預金を担保にする預金担保貸付の申込みがありました。第三者の預金を担保とする預金担保貸付の場合は、その担保提供者を連帯保証人とする取扱になっていますが、Bさんは「定期預金という確実な担保があるのだから、保証人の必要はないだろう。」と主張しています。

1.なぜ連帯保証は必要なのか?

Bさんの主張ももっともと思われますが、連帯保証は省略して差し支えないでしょうか?

第三者提供の預金担保の場合、担保提供者による連帯保証は必要です。

 預金を担保に徴するということは、法的には預金に質権を設定することを意味します。債権質の場合は、直接取立て権が認められていますから、いざとなれば質権者である金融機関が、第三債務者である自行から預金債権を取り立てる、つまり、誰の協力も要せずに預っている預金を解約して貸金に充当できるのですから、これほど確実な担保はないといってよいでしょう。

 しかし、この万全に見える自行預金担保にも大きな落とし穴があります。それは、債権質の対抗要件たる、第三債務者への通知・第三債務者の承諾は、「確定日付ある証書」によってしなければ第三債務者以外の第三者には対抗できないということです。例えば、担保に徴した定期預金が差し押えられたとすると、質権者である金融機関は差押債権者に質権を主張できないのです。

 このように、債権質は設定契約・第三債務者の承諾(第三債務者への通知)・確定日付の三点セットで、初めて完璧になる筈なのに、一般に金融機関が自行預金に質権を設定する場合は、重要な「確定日付」を省略しています。もちろん、これには理由があります。つまり、現在は相殺がほぼ無制限に認められるため、預金担保貸付の債務者の預金が仮に差し押えられたとしても、(質権を主張できなくても)貸金と預金との相殺で十分に対応でき、実質的に質権に頼る必要がないからです。

 しかし、相殺が成立するには同一当事者が互いに債権・債務を有していることが前提となりますから、債務者自身の預金を担保とする場合は問題ないのですが、第三者の預金を担保としても、金融機関に対して何ら債務を負担していない第三者の預金とは相殺のしようがありません。

 そこで、担保提供者たる第三者にも金融機関に対する債務を負担してもらう方法が連帯保証なのです。要するに、担保提供者たる預金者に連帯保証人になってもらえば、その預金者は金融機関に対して保証債務を負担することになりますから、仮に担保預金が差し押えられ、質権で対抗できないとしても、金融機関としては預金債務と保証債権を相殺することによって、貸金を回収できるわけです。

 こうしたことから、第三者提供の預金担保貸付において、担保提供者による連帯保証は必要不可欠と言ってよいでしょう。

2.連帯保証に代わる方法

連帯保証なしで融資するとすれば、どのような方法がありますか?

質権設定契約書(担保差入証)に確定日付を付す方法が考えられます。

 Q1で述べたような理由から、Bさんには連帯保証人になってもらう必要がありますが、どうしてもBさんの主張に応じざるを得ないとすれば、質権を万全にしておく、つまり、確定日付を具備しておくしかないでしょう。具体的には、質権設定契約書(担保差入証)等に確定日付をもらっておく方法が考えられます。

3.預金証書の取扱い

定期預金担保の場合、預金証書を預る必要はありますか?

法的に預る必要はありませんが、実務上は預ることが多いようです。

 質権の設定契約は「要物契約」のため、質物の引渡しが質権成立の要件とされていますが、預金のような指名債権については、預金証書等が質物といえるかどうか従来から疑問がありました。しかし、従来は民法の条文そのものが「債権の証書あるときは質権の設定はその証書の交付を為すによりてその効力を生ず」と規定されていたため、預金担保貸付においても(少なくとも質権設定時点においては)預金証書を預ることが必須条件となっていました。

  ところが、平成15年の民法改正で、上記条文が「譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするときは、質権の設定は、その証書を交付することによって、その効力を生ずる」と改められました。

 つまり、手形・小切手・株券等のように交付が譲渡の効力要件とされているもの、すなわち有価証券に限定した規定に改められたことから、法的には、預金に質権を設定する際に預金証書を預る必要はなくなりました。

 もっとも金融機関実務上は、従来と同様、預金証書を預る取扱が一般的のようです。質権を実行したり、相殺したりするためには、預金を解約する必要がありその際は原則として預金証書を回収しなければならないためでしょう。