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《テーマ9》根抵当権の債務者の死亡

 自営業を営むAさんへの融資の担保として、Aさん所有の店舗兼住宅とその敷地に根抵当権の設定を受けていますが、先般Aさんが死亡しました。Aさんの事業はこれまで順調に推移しており、また、長男のBさんが後継者として事業を承継するため、今後はBさんと取引を継続することになります。
 なお、Aさんの相続人は、妻のCさんと長男のBさん、長女のDさんです。

1.根抵当権者としての留意点

Aさんの死亡に伴い、根抵当権者として留意すべきことは何ですか。

@根抵当不動産の相続、A既発生債務の相続、B根抵当権の債務者の相続、という三つの相続関係を念頭に対応することが肝要です。

 根抵当権設定者兼債務者が死亡した場合には、三種類の相続関係が生ずることになります。

 @まず第一は、根抵当権設定者すなわち根抵当不動産の所有者としての地位の相続で、通常は、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって新たな所有者を決めることになります。根抵当権者としては、事業の後継者(Bさん)が根抵当不動産を相続するよう要請すべきですが、法的にそれを強制することはできません。

 A第二は、被相続人が負担していた既発生債務の相続です。 相続債務は、(当然に)各相続人の法定相続分に応じて分割承継されます。もっとも、遺産分割協議によって特定の相続人だけが債務を相続する旨を決めることも可能ですが、こうした遺産分割協議は債権者の承諾がなければ認められません。  なお、根抵当権の債務者変更の効果の例外の一つとして(前掲<融資先の合併と根抵当権>〔Q2〕参照)、「元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務・・・・を(無条件で)担保する」ことになりますから、既発生債務は根抵当権によって担保されたまま、各相続人によって分割承継されることになります。

 B第三は、根抵当権設定契約上の債務者としての地位の相続です。すなわち、元本確定前の根抵当権の債務者が死亡した場合は、根抵当権は、「相続開始の時に存する債務」だけでなく「根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に負担する債務」も担保するものとされていますから、根抵当権者は根抵当不動産の相続人との話し合いによって、(将来に向け)根抵当権設定契約上の債務者の地位を承継する相続人を決めることができるのです。

2.「債務」の相続

既発生の債務の相続はどのようになりますか?

C・Dさんの相続債務について、Bさんに債務引受をしてもらうべきでしょう。

 既発生債務の相続については、当然に各相続人が法定相続分に応じて分割承継するこになりますので、質問のケースでも法的には特に手続を要しません。

 

 しかし、この法律関係を前提とした場合、今後はB・C・Dさんそれぞれに相続分に応じて、既存債務の弁済を請求しなければなりませんから、実務上は、BさんにC・Dさんが承継した債務を債務引受してもらい、Bさん一人に全額を請求できるようにしておく必要があります。

 ただ、この場合留意しなければならないのは、Bさんが債務引受により負担する債務は根抵当権では担保されないということです。つまり、根抵当権で担保されるのは、あくまで「相続開始の時に存する債務」すなわち、B・C・Dさんが法定相続分に応じて承継した債務なのであって、債務引受という新たな法律行為によってBさんが負担する債務は、根抵当権の被担保債権には含まれないのです。

 したがって、既存の貸付金の一部が実質的に無担保にならないようにするには、債務引受を重畳的債務引受にするか、(免責的債務引受による場合は)Bさんの引受債務を「特定の債権」として根抵当権の被担保債権の範囲に加える必要があります。

3.「債務者」の相続

根抵当権の債務者の相続についてはどう対処すべきですか?

6ヶ月以内に、Bさんを「指定債務者」とする合意の登記をする必要があります。

 Q1のBで述べたように、根抵当権は「根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に負担する債務」も担保しますが、そのためには、相続の開始後6ヶ月以内に、これまで根抵当権の債務者となっていた被相続人に代わる新たな債務者(「指定債務者」といいます)を相続人の中から選んで、その旨の登記をする必要があり、この登記をしないまま6ヶ月を経過すると、根抵当権は相続開始時に元本が確定したものとみなされてしまいます。

 したがって、質問の場合も、今後Bさんと取引を継続し、Bさんへの融資の担保としてこの根抵当権を活用したいのであれば、根抵当不動産の相続人との合意によって、Bさんを指定債務者と定め、6ヶ月以内に登記しなければなりません。

4.具体的な登記手続

具体的な登記手続はどのようになりますか?

@ 根抵当不動産の(所有権の)相続登記、A 根抵当権の債務者の(相続による)変更登記、B根抵当権の指定債務者についての合意の登記、を行うことになります。

 @まずは、B・C・Dさんの遺産分割協議によって、根抵当不動産(店舗兼住宅とその敷地)の相続人を決めてもらい、同不動産について相続登記を行うことになりますが、先にも述べたように、根抵当権者・債権者としては、Bさんが相続するよう要請すべきでしょう。

 A根抵当権の債務者を、相続を原因として、AさんからB・C・Dさんに変える債務者の変更登記が必要です。この登記は、既発生のAさんの債務をB・C・Dさんが相続した事実を登記に反映させるとともに、Bの登記における指定債務者が相続人の一人であることを明らかにするためのものと思われますが、いずれ、Bの登記の前提としても必要な登記とされており、Bの登記をするためには、この登記を省略することはできません。

 BAの登記をしたうえで、根抵当不動産の相続人と根抵当権者との合意によって、Bさんを指定債務者にした旨の合意の登記を行います。  なお、Q2で述べたように、C・Dさんが相続した既発生債務をAさんが免責的に引き受けた場合は、更に、根抵当権の被担保債権の範囲に、Bさんが引き受けた債務を「特定の債権」として追加する、債権の範囲の変更登記が必要になります。

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