秋田で相続のご相談は司法書士法人岡田事務所|相続・遺言|不動産登記|成年後見

相続・遺言

相続の相談は秋田の岡田事務所 HOME > 法務ルーム > 金融法務ルーム > 《テーマ10》融資先の会社分割と担保権

金融法務ルーム

《テーマ10》融資先の会社分割と担保権

 A株式会社に対する融資の担保として、A社所有の甲不動産には抵当権の、乙不動産には根抵当権の設定を受けていますが、今般、A社は会社の新設分割を行ない、その販売部門を新たに設立するB株式会社に承継させることになりました。
 その新設分割計画書によると、甲・乙不動産ともB社が承継し、また、当行の融資にかかる債務も全てB社が承継することになっています。

1.新設分割の意義

そもそも会社の新設分割って何ですか?

株式会社や合同会社がその事業(の一部)を承継させるために新会社を設立することで、組織再編の一手法です。

 新設分割とは「株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させること」です。例えば、デパート事業と鉄道事業を兼営しているX社が、鉄道事業部門を独立させるために新会社Y社を設立するといったケースが考えられますが、この場合のX社を「新設分割会社」、Y社を「新設分割設立会社」と言います。

 Y社は承継した鉄道事業部門の対価として、X社にY社の株式を交付します。X社がY社から受け取った株式については、X社自身が保有するケースと、Y社から受け取ると同時にX社の株主に配分するケースとがあります。前者の場合、X社はY社の親会社としてY社を支配することになり、こうした会社分割を「分社型」と言います(かつては物的分割と言いました)。また、後者の場合は、X社の株主がY社の株主を兼ねることになり、このような会社分割を「分割型」と言います(かつては人的分割といいました)。

 いずれ、こうした新設分割においては、新設分割設立会社が承継する権利義務(資産負債)の内容は新設分割計画によって定められ、会社分割の効力が発生すると同時に(新設分割設立会社の設立登記がなされると同時に)新設分割計画に従って実体的な権利義務の変動が生じます。

2.債権者異議の可否

融資先の会社が合併する場合などは、債権者にも異議申述の催告等(債権者保護手続)がなされますが、今回の会社分割に際してはそうした手続は省略されるとのことでした。会社分割の場合は、債権者が異議を述べることはできないのですか?

会社分割の場合も、基本的に債権者は異議を述べることができますが、会社分割に伴い新設分割会社(A社)と新設分割設立会社(B社)が連帯債務者となる場合などは、債権者が異議を述べることはできません。

 まず、「分割型」の会社分割の場合は、債務が新会社に承継されるか否かにかかわらず、債権者は異議を述べることができます。債権者たる金融機関としては、債務がB社に承継されるとすれば、その意思に関わりなく債務者が代わることになりますし、B社に承継されないとしても、債務者たるA社の信用の引き当てとなる事業や資産の一部が会社分割によって外部(B社)に流出し、その対価たるB社の株式も株主に配分されてしまうわけですから(これに伴ってA社の資本金等が減少する筈ですから)、債権者として異議を述べることができるのは当然でしょう。

 しかし、「分社型」の会社分割の場合は、会社分割によってA社の事業や資産が流出するとしても、その対価たるB社の株式をA社が取得するわけですから、基本的にA社の信用力や資本金等に変化はありません。このため、「分社型」の会社分割が行われても、債務がB社に承継されない場合は、債権者として異議を述べる筋合いは無いことになりますし、債務がB社に承継されたとしても、A社が連帯債務者や連帯保証人となり、A社にも債務の履行を請求できる場合は、一応、債権者が不利益を受けることは無いという理屈になりますので、会社法上、債権者が異議を述べることはできないことになっています。

3.担保管理上必要な手続

担保管理の観点から必要な手続は何ですか?

基本的に特別な契約等を締結する必要はありませんが、実体法上の権利義務の変動を登記に反映させておく必要があります。

 Q1で述べたように、B社の設立登記がなされると、法律上当然に、新設分割計画に定められたとおりの権利義務の変動が生じます。このため、甲・乙不動産の所有権は自動的にB社に移転しますし、融資にかかる債務もまた自動的にB社に承継されます。したがって、甲・乙不動産について別途A社とB社に譲渡契約等を締結させるといった必要はありませんし、B社と改めて債務引受契約を締結するなどの手続も要しません。

 ただし、会社分割により、B社の設立登記がなされたとしても、甲・乙不動産の所有者や(根)抵当権の債務者に関する不動産登記の記載が自動的に変わるわけではありませんので、不動産については、会社分割に伴う権利変動を登記に反映させておく必要があります。

 なお質問の場合は、新設分割により融資にかかる債務をB社が承継するにもかかわらず、債権者保護手続がなされないとのことですから、新設分割計画書の中に「B社が承継した債務についてA社が連帯債務者となる」旨の記載(例えば「A社は、B社が承継する一切の債務につき併存的債務引受をする」等の記載)があるはずですので、確認してください。

4.必要な登記手続

どのような登記手続が必要ですか?

@ 所有権の移転登記、A 抵当権の債務者変更登記、B 根抵当権の債務者変更登記 が必要になります。

@まず、B社が承継した甲・乙不動産について、会社分割を原因とするA社からB社への所有権移転登記をすることになります。

Aまた、甲不動産については、抵当権の債務者をA社からA社・B社(連帯債務者)に変える変更登記が必要になりますが、この登記に関しては、新設分割計画書の記載内容によって、2通りの登記が考えられます。
 まず、新設分割計画書の記載が「債務をB社が(免責的に)承継し、その上でB社が承継した債務をA社が重畳的に債務引受する」旨の内容の場合は、抵当権の債務者を会社分割を原因として、一旦B社(単独債務者)に変更したうえで、A社を連帯債務者として追加すべきと解されます。(分割会社が連帯債務者となる場合はこの方法が一般的と考えられます。)
 もう一つは、新設分割計画書の記載が「債務をB社が重畳的債務引受の方法によって承継する」旨の内容の場合で、この場合は、抵当権の債務者に連帯債務者としてB社を追加することになると解されます。

B乙不動産の根抵当権に関しては、(普通)抵当権とは考え方が異なります。すなわち、民法上「元本の確定前にその債務者を分割する会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債務のほか分割した会社及び分割により設立された会社が分割後に負担する債務を担保する」と規定されているからです。
 つまり、A社が分割会社となってB社を設立した場合は、会社分割時点において存在する融資は(B社に承継されるか否かにかかわらず)当然に根抵当権で担保され、更に会社分割後の融資については、A社に対するものも、B社に対するものも根抵当権で担保されるということです。
 これは、(別途根抵当権の変更契約等をしなくても)会社分割によって当然に根抵当権の債務者がA社1社からA社・B社の2社に変更されることを意味しますから、根抵当権の登記についても、会社分割を原因としてその債務者をA社・B社に変更することになります。

ページのトップへ戻る