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《テーマ14》娘婿による居宅の増改築

 Aさんから、リフォームローンの借入申込があり、増改築に関するアドバイスを求められました。
 Aさんと妻Bさんが、Bさんの父Cさんの家に同居することに伴い、Cさん所有の住宅をAさんがリフォームローンを借りて増改築するとのことです。
 なお、Cさんの住宅の評価額は300万円、増改築費は1500万円です。

1.リフォーム後の家は誰のもの?

Aさんが資金を拠出して、Cさん所有の住宅を増改築した場合の権利関係はどうなりますか?また、問題点はありますか?

不動産の付合により、増改築後の住宅の所有権は全てCさんに帰属します。一方、AさんはCさんに対して償金請求権を取得しますが、この請求権を行使しないと贈与として扱われ、Cさんに贈与税が課される可能性があります。

 Aさんがお金を出してCさんの住宅を増改築するのですから、増改築部分についてはAさんが所有者になるようにも思われますが、実はそうではありません。民法には「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する」との規定があるからです。これを不動産の付合と言います。

 このため、建物の所有者は、その建物の増改築部分(従として付合した物)についても所有権を取得することになり、第三者が増改築費を拠出したとしても、その第三者が増改築後の建物について当然に所有権の一部を取得するといったことはないのです。

 もっとも、これではいかにも不公平ですから、不動産の付合の規定によって損失を受けた者、すなわち増改築費を支出した者は、一種の不当利得の返還請求として、不動産の所有者に償金を請求できることになっています。

 したがって、質問の場合も、増改築後の住宅はCさん一人が所有者となり、一方、AさんはCさんに対する(1,500万円相当の)償金請求権を取得することになりますが、そこで問題となるのが、AさんがCさんに償金請求権を行使しない場合の税務上の取扱です。

 すなわち、質問のケースでは、AさんとBさんがCさんの家に同居するために、Aさんがお金を出して増改築するわけですから、AさんがCさんに増改築費を請求することはないでしょうが、その場合は、法律上発生した償金請求権を行使しないために、一種の贈与(AさんからCさんへの1,500万円相当の贈与)とみなされ、Cさんに贈与税が課税される可能性があるのです。

2.考えられる方策

そうした問題を回避できる方策はありますか?

全く税金がかからないといった方法はないでしょうが、Cさんが事前に(増改築前の)住宅をAさんに贈与したり、(増改築後の)住宅について、一定割合の持分をAさんに譲渡した場合は、税負担が軽減されると考えられます。

 税務の専門家ではありませんので、大雑把なことしか言えませんが、Aさんによる増改築資金の拠出が、Cさんに対する贈与とならないようにする現実的な方法としては、大きく分けて二通りあると思われます。

(1)一つは、増改築前にCさんが住宅をAさんに贈与するという方法です。そうすると、Aさんは自分が所有する住宅を自分が費用を拠出して増改築するわけですから、増改築資金に関して贈与の問題が生じることはありません。
 もっとも、この場合は、CさんからAさんへの贈与(300万円相当の贈与)となり、Aさんに贈与税が課税されることになりますが、税額そのものは、増改築費(1,500万円相当)にかかる贈与税と比べると格段に小さくなります。

(2)もう一つは、Aさんが償金請求権を行使し、Cさんから増改築後の住宅の所有権の一定割合を代物弁済として譲り受ける方法です。すなわち、質問のケースで増改築費にかかる贈与税の問題が生じるのは、Aさんが不動産の付合に伴う償金請求権を行使しないからであり、Aさんがそれを行使して、Cさんが増改築費相当額をAさんに支払えば、そもそも贈与税の問題は生じないのです。
 そして、増改築費相当額は必ずしも現金で支払われる必要はありませんから、Cさんが増改築費相当額の支払いに代えて、増改築後の住宅の所有権の相当部分(増改築費に相当する持分)をAさんに譲渡する(代物弁済する)ことによって、贈与税の問題を解決することが可能です。ただし、この場合は、Cさんが住宅の所有権の相当部分を有償で譲渡したと同様にみなされるため、Cさんに一定の譲渡所得税が課されることになると考えられます。

 なお、ケースによっては、(1)の贈与を所有権の一部の贈与とするとか、(1)と(2)を組み合せる方が有利な場合なども考えられます。

3.試算

上記の方法のうち、最も有利な方法を教えてください。

既存の住宅の価格や増改築費の額によって異なりますので、一概には言えませんが、質問のケースでは概ね以下のようになると考えられます。

 まず、上記(1)(2)と比較するために、増改築費相当額全額が贈与税の対象とされた場合の贈与税額を試算してみます。

  15,000,000円(課税価格) − 1,100,000円(基礎控除) = 13,900,000円
  13,900,000円 × 50%(税率) − 2,250,000円(控除額) = 4,700,000円

 このように、(1)(2)の方法を講じない場合は、理論上Cさんに4,700,000円の贈与税が課されることになると考えられます。

(1)次に上記(1)の方法をとった場合の贈与税を試算してみます。

   3,000,000円(課税価格) − 1,100,000円(基礎控除) = 1,900,000円
   1,900,000円 × 10%(税率) = 190,000円

 このように、(1)の方法をとった場合は、Aさんに190,000円の贈与税が課されるものと考えられます。

(2)次に(2)の方法をとった場合の譲渡所得税額について考えてみます。
 まず、300万円の価格の住宅に1,500万円の費用をかけて増改築したのですから、増改築後の住宅の価格は単純計算で1,800万円と考えることができます。
 このため、Cさんが増改築費相当額(1,500万円)を、Aさんに住宅の所有権で代物弁済するとすれば、全体の1,500/1,800、すなわち5/6の持分を移転する必要があります。

 また、譲渡所得税は、譲渡時の価格と取得価格との差額、つまり儲けの部分に課税される税金ですが、移転する5/6の持分のうち今回の増改築にかかる部分(1500万円の5/6=1,250万円)に関しては、取得価格と譲渡価格が同額と考えることができますから、譲渡所得は発生しないため、譲渡所得税の対象にはならないと考えられます。
 したがって、譲渡所得税の対象となるのは、移転する5/6の持分のうち増改築前の住宅の価格に対応する部分、すなわち、300万円の5/6=250万円についてということになると思われます。  そして、増改築前の住宅の取得価格が判明している場合は、その取得価格を元に算出した減価償却後取得費と譲渡価格250万円との差額に譲渡所得税が課されることになりますが、取得価格が分からない場合は、譲渡価格から5%(概算取得費)を控除した額が譲渡所得とされ、これに20%(所得税15%・住民税5%)が課税されます。

 質問のケースで、増改築前の住宅の取得価格が不明と仮定して、譲渡所得税を試算してみましょう。
  2,500,000円(譲渡価格) − 125,000円(概算取得費:250万円の5%) = 2,375,000円
  2,375,000円×20%=475,000円
 このように(2)の方法をとった場合に、増改築前の住宅の取得価格が分からないと仮定すると、Cさんに475,000円の譲渡所得税が課されると考えられます。

 なお、先にもお断りしましたが、税務の専門家ではありませんので、以上の試算についてもあくまで大雑把なもので、必ずしも正確とは言えませんが、おおよその感じは掴んでいただけると思います。
 また、いずれの場合も、贈与税や譲渡所得税とは別に、不動産取得税が課税されることを念頭に置いてください。

4.必要な登記手続

どのような登記手続が必要ですか?

いずれの方法をとった場合も、表題登記についての変更登記と、所有権や持分の移転登記が必要になります。

(1)の方法をとる場合は、まず増改築前の住宅について、CさんからAさんへの贈与を原因とする所有権移転登記を行ない、増改築完了後に表題登記の変更登記を行うことになります。

(2)の方法をとる場合は、基本的には、増改築終了後にまず表題登記の変更登記を行なったうえで、代物弁済を原因とするCさんからAさんへの所有権一部移転登記を行うことになります。

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