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《テーマ15》抵当建物の取壊し

自営業を営むAさんへの融資の担保として、Aさん所有の住宅兼店舗とその敷地、作業所とその敷地に抵当権の設定を受けていますが、先般Aさんが担保物件である作業所を取り壊してしまいました。

1.抵当権の行方

この場合、作業所に設定されていた抵当権はどうなりますか。

当然のことながら、抵当権は消滅しています。

 所有権、地上権などの用益物権、抵当権などの担保物件、占有権を総称して「物権」といいます。同じ財産権でも、特定の人の特定の人に対する権利である「債権」と異なり、「物権」は「物」に対する権利ですから、誰に対しても主張できる反面、「物」に対する権利だけに、「物」が消滅すると「物権」も当然に消滅してしまいます。このため、抵当権も(「物権」である以上)その目的である「物」すなわち抵当物件が消滅すると当然に消滅することになります。

 もっとも、「物」の交換価値を支配するための「物権」である抵当権には、「その目的物の滅失等によって債務者が受けるべき金銭等に対しても行使できる」という物上代位性がありますから、火災保険等が付された抵当建物が焼失した場合や、抵当建物が第三者に壊されてその者に損害賠償請求ができる場合などは、建物が消滅しても抵当権は保険金や損害賠償請求権に対する権利として存続するとも言えるかも知れませんが、質問のケースでは、こうした物上代位の可能性もないでしょう。

 したがって、質問の作業所に設定された抵当権は、作業所が取り壊された時点で消滅したことになります。

2.債権者としての対処法

抵当権者(債権者)としては、どう対処したらよいでしょうか?

理論上は、期限の利益を喪失させたり、損害賠償請求したりすることも可能でしょうが、実務上は代替担保等の債権保全措置を講じるべきでしょう。

 金融機関の抵当権設定契約書には、通常「あらかじめ抵当権者の書面による承諾がなければ、抵当物件の現状を変更しない」旨の約定が明記されています。また、民法には「債務者が担保を滅失させたときは期限の利益を主張できない」との規定があります。更に刑法には「自己のものであっても物権を負担した建物を損壊したときは、建造物等損壊の罪になる」旨の条文があります。

 したがって、質問の場合も、債務不履行(契約不履行)を理由に、又は民法の規定に基づき、Aさんへの融資について期限の利益を喪失させて、直ちに抵当権を実行するとか、場合によってはAさんを刑事告訴することも、理論上は可能でしょう。

 しかし、こうしたことは、徒に不良債権を創出することにもなりかねず、債権者(抵当権者)にとって現実的な対応とは思われません。このため実務上は、Aさんとよく協議し、例えば、作業所を建替えるために取り壊したのだとすれば、建替え後の作業所を追加担保として徴すべく交渉するとか、他の担保提供を求めるなどの対応が現実的でしょう。

3.必要な登記手続

消滅している抵当権だとすれば、抵当権者としても抵当権の抹消登記をすべきでしょうか?

建物の滅失登記をしてもらうべきでしょう。

 〔A1〕で述べたように、作業所に設定されていた抵当権は、実体法上は既に消滅しており、単に抵当権の消滅が登記に反映されていないだけですから、放置しても債権保全等の面では特に問題はありませんが、金融機関としての担保管理・担保評価等の内部事務処理のうえでは抵当権の消滅を登記に反映させておく必要があるかもしれません。

 その場合は、一応2通りの方法が考えられます。
 一つは、作業所について抵当権の抹消登記をする方法であり、もう一つは作業所そのものの滅失登記を行う方法です。
 前者の方法も(まだ作業所の滅失登記がなされていないとすれば)登記実務上は可能かも知れませんが、実体法上既に消滅している抵当権を、解除や放棄を原因として抹消するというのは、いかにも現実の権利変動に則さない登記であり、金融機関としても行うべきではないでしょう。

 したがって、実務上も、実体上の権利変動に則した後者の方法によるべきであり(建物が滅失した場合は1ヶ月以内に滅失登記を行うことが所有権登記名義人に義務付けられています)、Aさんに作業所の滅失登記を行ってもらうべきと考えます。

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