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《テーマ18》債務者の行方不明と時効

 4年前、自営業のAさんに、Aさんの父Bさんを連帯保証人とし、また、担保としてBさん所有の不動産に根抵当権(債務者:A,債権の範囲:銀行取引)の設定を受けて、期間10年の長期資金を融資しました。

 

 当初の1年間は順調に償還されたものの、その後返済が滞るようになり、2年前にAさんは行方不明となってしまいました。このため、貸付金の期限の利益が失われましたが、Bさんが協力的で、以後今日まで連帯保証人のBさんが分割して返済してくれています。

1.時効消滅のリスク

Bさんが連帯保証人として責任をとってくれている以上、金融機関として もこれ以上特別な対処は必要ないと思いますが、どうでしょうか?

このままでは3年後に主債務の消滅時効が完成し、Bさんの保証債務までが消滅する危険性があります。

 質問のようなケースで留意しなければならないのが、消滅時効の問題です。保証人が債務者に代わって分割弁済を継続している場合、自らの保証債務については債務承認したことになり、保証債務自体の時効は中断されます。

 しかし、時効中断の効力は、原則として中断事由が生じた当事者間にしか及ばないため(時効中断の相対効)、保証債務の時効が中断されても主債務の時効は中断されません。

 したがって、このままでは、3年後にAさんの主債務について消滅時効が完成することになり、もし、AさんやBさんに主債務の消滅時効を援用されると、主債務が消滅する結果、(付従性により)Bさんの保証債務も消滅することになるのです。

2.時効消滅を阻止する方策

消滅時効の完成を阻止するにはどうすればよいですか?

根抵当権の実行や訴訟提起が考えられますが、Bさんが協力的だとすれば、現実的ではないでしょう。

 まず、考えられるのが、根抵当権実行による競売申立です。これは、根抵当権の被担保債務が消滅時効にかかる前に、担保不動産の競売によって貸金を回収するということですから、もっとも分かりやすい方法です。

 また、AさんやBさんを相手取って訴訟を提起する(裁判上の請求をする)ことで、主債務の時効を中断する方法も考えられます。なお、連帯債務者や連帯保証人に対する請求の効力は他の債務者にも及ぶことから、連帯保証人であるBさんに対する裁判上の請求によって、Aさんの主債務についても時効を中断させることができます。

 このため、所在のはっきりしているBさんだけを相手取って訴訟を提起した場合でも、主債務の時効を中断することが可能です。

 しかし、根抵当権の実行にしても、訴訟提起にしても、それなりに時間や費用がかかりますし、せっかく協力的なBさんとの信頼関係を損なうことになるでしょうから、あまり現実的・実務的な対応とは思われません。

3.実務的な対応策

実務上、何か有効な対応策はありますか?

Bさんに主債務者になってもらうことが考えられますが、債務引受の手法は問題があります。

 今後もBさんが分割弁済を継続してくれる蓋然性が高いとすれば、問題は主債務の時効ですから、Bさんに主債務者になってもらうことができれば、問題は解決されます。しかし、第三者に主債務者になってもらう場合に通常金融機関が用いる「債務引受」という方法は、質問のケースでは問題があると考えます。

 というのは、まず、「免責的債務引受」は基本的に債務者・引受人・債権者の3者間の契約です。また、理論上、引受人・債権者だけでも免責的債務引受契約は可能ですが、その場合も債務者の意思に反することはできません。このため、Aさんの関与なしにBさんと免責的債務引受契約を結んだ場合は、将来Aさんにその契約を覆される危険性が残ることになります。

 一方、重畳的債務引受契約は、債権者と引受人だけでも有効にできますが、債務者(A)と引受人(B)が連帯債務者となるため、いわゆる「連帯債務の時効の絶対効」の問題が生じます。すなわち、「連帯債務者の一人(A)のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については他の連帯債務者(B)も、その義務を免れる」ことになり、時効の問題を根本的に解決することにはならないのです。

 以上のように、債務引受が困難だとすれば、Bさんに主債務者になってもらうには、(金融機関としてはとりにくい方法でしょうが)Bさんに肩代り資金(一括代弁資金)を融資して、既存の長期貸付金を一括弁済してもらう以外に方法は見当たらないように思われます。

4.根抵当権に関する手続

根抵当権について、何か手続をとる必要はありますか?

根抵当権の債務者にBさんを加えることが望ましいでしょう。

 質問の根抵当権は、債務者:A,被担保債権の範囲:銀行取引となっていますから、当然のことながら、Bさんに対する債権は担保されません。つまり、現状では、Aさんの主債務は根抵当権で担保されているものの、Bさんの保証債務は担保されていないことになります。

 一方、被担保債権の範囲を「銀行取引」とする根抵当権は保証債権も担保する、すなわち「銀行取引」には「保証取引」も含まれますから、質問の場合は根抵当権の債務者にBさんを加えるだけで、Bさんの保証債務も根抵当権で担保されることになります。

 したがって、Bさんに肩代り資金を融資する場合はもちろん、当面Bさんによる分割弁済を甘受する場合も、根抵当権の債務者にBさんを加えておくことが望ましいと考えます。

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