秋田で相続のご相談は司法書士法人岡田事務所|相続・遺言|不動産登記|成年後見

相続・遺言

相続の相談は秋田の岡田事務所 HOME > 法務ルーム > 金融法務ルーム > 《テーマ13》債務者や保証人が破産した場合の担保物件の取り扱い

金融法務ルーム

《テーマ13》債務者や保証人が破産した場合の担保物件の取り扱い

 Aさんへの融資の担保として、Aさん所有の住宅とその敷地に抵当権の設定を受けていますが、先般、裁判所から「Aさんの破産事件につき、破産手続を開始し、同時に破産手続を終了させる破産廃止の決定をする」旨の通知があり、 また、近日中に免責許可決定もなされるようです。
 なお、担保物件である住宅及び敷地には、当行の抵当権以外の担保権等は設定されていません。

1.同時廃止とは?

「破産手続を開始し、同時に破産手続を終了させる破産廃止の決定」とは、どういうことですか?

破産者の財産(破産財団)が僅少で、破産手続の費用さえ捻出できないような破産者について、破産手続開始と同時に破産手続を終了させ、実質的に破産手続を省略するということです。

 破産手続は、端的に言うと、破産管財人が破産者の総財産を換価し、債権者に対して平等に配当するための手続です。しかし、その破産者の総財産(これを破産財団といいます。)が僅少で、破産管財人の報酬など破産手続の費用さえ賄うに足りないような場合、それ以上破産手続を進めることは、債権者に対する配当という観点からも無意味です。

 そこでこのような場合には、裁判所は破産手続の開始と同時に破産手続を廃止する(終了させる)決定をすべきものとされており、これを同時廃止決定と言います。同時廃止決定がなされると、破産手続の開始と同時に破産手続が終了しま すから、破産管財人も選任されず、破産者の財産が(配当のために)換価されることも、債権者が破産配当を受けるといったこともありません。

 同時廃止は、本来、不動産などのめぼしい資産を有しない破産者を対象とした制度ですが、破産者が不動産を所有している場合でも、その不動産に抵当権等が設定されていて、被担保債権額が不動産の価格を大きく上回っているような場合には、同時廃止の決定がなされます。これは、抵当権等は(後述のように)別除権として、破産手続外での行使が認められますし、仮に破産管財人が抵当不動産を換価しても、抵当権者等に優先的に配当がなされる結果、一般の債権者が配当を受けることはできないため、やはり破産手続を行う意味がないからです。

2.抵当権に対する影響

破産手続開始決定や免責許可決定によって、当行の抵当権はどのような影響を受けますか?

抵当権は破産法上別除権として扱われ、破産手続によらずに行使することができるため、破産手続開始決定や免責許可決定がなされても、基本的に何ら影響を受けません。

 前述のように、破産手続は、破産管財人が破産者の総財産を換価し、債権者に対して平等に配当するための手続です。このため、破産手続の開始決定がなされると、各債権者は破産手続によってしか権利を行使することができなくなり、破産手続外の個別的な権利行使は禁止されます。例えば、それまでに破産者の財産に対してなされた強制執行・仮差押・仮処分等も失効し、全て破産手続による債権届出や債権調査・配当という集団処理に切り替えられます。

 しかし、いくら破産手続が債権者の平等を図る集団的清算手続きだといっても、本来優先権を有する担保権者等までも絶対的に拘束するのは不適当ですから、破産法は「破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者」の権利については、「破産手続によらないで行使することができる」旨を規定しており、これを別除権といいます。つまり、破産者所有の不動産に設定されている抵当権等の担保権のことを別除権と呼び、その抵当権者(別除権者)は、破産手続に拘束されずに抵当権を実行することができるということです。

 したがって、破産手続開始決定や免責許可決定がなされても、抵当権については何ら影響はないと考えてよいでしょう。(ただし、破産債権の届出や破産配当との関係では、「不足額責任主義」によって、抵当権で回収できない債権額だけが破産配当の対象とされます。)

 なお、破産者以外の者から担保提供を受けている抵当権(物上保証の場合)については、当然のことながら破産手続とは関わりありませんし(もちろん別除権とはなりません)、破産者が免責を受けた場合も何ら影響を受けない旨が破産法に規定されています。

3.任意の弁済申し出に対して

今般Aさんから「借入金は免責を受けた後も返済するので、住宅・敷地の処分は見合わせて欲しい」との申し入れがありましたが、どう対処すべきでしょうか?

免責を受けた債務にかかる弁済契約は無効と考えるべきですが、任意になされる弁済自体は有効と解されますので、(別除権者としては)Aさんの申し入れを検討する余地はあるでしょう。

 破産法における免責は、破産手続における配当によって弁済されなかった残余の債務(同時廃止の場合は全部の債務)について、破産者の責任を免除する制度であり、免責許可決定を受けた破産者は、租税や罰金などの特殊な債務を除く負債について、全面的に責任を免れます。

 免責された債務の法的性質については、「自然債務説(債権者が法的に弁済を強制できないだけで、債務自体は存続するという考え方)」と「債務消滅説(債務そのものが消滅するという考え方)」が対立していますが、一般には「自然債務説」が有力のようです。

 そこで、質問のAさんからの申し入れに対する対応ですが、結論としては、非常に微妙な問題と言わざるを得ません。すなわち、免責を受けた債務について「自然債務説」に立った場合は、有効に弁済が受けられるものの、「債務消滅説」をとった場合は、存在しない債務の弁済として無効と考えざるを得ないからです。もっとも、前述のように「自然債務説」が通説であり、判例もこれを支持しているようですから、金融機関の実務としても、免責された債務者が居宅を失うことを懸念して、質問のような申し入れをしてきた場合にまで、これをムゲに拒絶して競売を申し立てるというのはいかがなものでしょう。

 ただし、「自然債務説」に立った場合でも、任意になされる弁済が有効というだけで、そうした弁済について事前に約定(弁済契約)をしても効力は無いと解されています。このため、貴行がAさんの申し入れに応じたとしても、返済を法的に強制できないことに変わりはなく、あくまでAさんが任意に返済した場合に受領できるに過ぎませんが、Aさんの住宅・敷地に設定されている抵当権が免責の影響を受けない以上、Aさんが約束を履行しない場合は何時でも抵当権を実行して回収を図ることができます。

 したがって、実質的にAさんとの約束は抵当権によって担保されていることになり、Aさんが約束を履行する可能性も小さくないでしょうから、金融機関としてもAさんの申し入れを検討する余地はあると思われます。

ページのトップへ戻る