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《テーマ19》抵当権の債務者追加

住宅ローンの担保として、Aさんと妻Bさん所有(共有)の住宅・敷地に、(金銭消費貸借を原因として)Aさんを単独債務者とする抵当権の設定登記が完了しましたが、実は、AさんとBさんの連帯債務とすることが保証機関の条件でした。

1.債務者を追加できるか

Bさんを連帯債務者として追加する登記は可能ですか?

連帯債務者を追加する登記は可能ですが、その前に、ローン契約や抵当権設定契約がどうなっているかが問題です。

 抵当権設定の登記は、抵当権設定契約の内容を不動産登記簿に反映させるためのものです。また、抵当権は被担保債権に対する付従性を有しますから、抵当権設定契約の内容は、被担保債権を前提としたものでなければなりません。

 したがって、質問のケースでも重要なのは、抵当権の被担保債権たるローン契約(金銭消費貸借契約)が、単独債務となっているか、連帯債務になっているかということです。

2.ローン契約が連帯債務である場合

ローン契約自体が連帯債務だった場合はどうすべきですか?

「錯誤」を原因として、抵当権の債務者を連帯債務者A・Bに訂正する、更正登記をなすべきことになります。

 ローン契約(金銭消費貸借契約)において、A・Bさんが連帯債務者になっているとすれば、抵当権の被担保債権そのものが連帯債務だったわけですから、登記された内容が実体上の権利関係と符合していないことになります。

 このように、「すでに登記された権利の表示や内容に、その当初から『錯誤又は遺漏』があって、登記された権利と実体上の権利とが符合しない場合」は、その「不一致を是正するために既存の登記の内容の一部を訂正補充する」ための登記をすべきものとされており、こうした登記を「更正登記」といいます。

 したがって、質問の場合も、抵当権の債務者を「錯誤」を原因として「連帯債務者A・B」に是正する、更正登記をなすべきです。

 なお、質問の場合は、登記原因証明情報たる抵当権設定契約書も、Aさんの単独債務の形で作成されているものと思われますが、ローン契約が連帯債務になっている以上、(連帯債務のうちAさんの債務のみを担保する旨の特段の合意があれば別ですが)通常は、抵当権設定契約書(作成過程)にも錯誤があったと解するべきでしょうから、抵当権設定契約書を連帯債務に訂正することは差し支えないと考えます。

3.ローン契約が単独債務である場合

ローン契約自体が単独債務だった場合はどのようにすべきですか?

「重畳的債務引受」を原因として、抵当権の債務者にBさんを連帯債務者として追加する変更登記をなすべきと考えます。

 保証機関の条件がA・Bさんの連帯債務だったのに、Aさんを単独債務者とするローン契約(金銭消費貸借契約)が締結されているとすれば、あるいはローン契約自体に錯誤があったと考えるのが本筋かも知れません。しかし、ローン契約そのものを錯誤を理由として訂正することは、事実上不可能と思われます。なぜなら、金銭消費貸借契約は民法上「要物契約」とされており、債務者に実際に金銭を交付しなければ成立しない性質の契約だからです。

 このため、Aさんを単独債務者として、Aさん一人に金銭を交付して成立したローン契約を、A・Bさんの連帯債務に訂正するには、単にローン契約書の債務者を訂正するだけでは足りず、理論上はA・Bさん二人に金銭を交付し直す必要があり、そのためには、Aさん一人に交付した貸付金を一旦回収しなければならないことになります。

 しかし、住宅ローンの貸付金は、通常、実行と同時にハウスメーカー等に支払われており、これを回収するのは事実上不可能です。かと言って、貸付金の交付をし直さずに、ローン契約書と抵当権設定契約書だけを連帯債務に訂正し、〔A2〕のように更正登記を行うのでは、抵当権の被担保債権たる金銭消費貸借契約の成立自体に疑義が残ることになり、被担保債権に対して付従性を有する抵当権の成立も危ういことになってしまいます。

 そうした、実体法上有効性が疑問視される方法は、金融機関としては避けるべきでしょう。

 このように、金銭消費貸借が要物契約であるが故に、法律上債務者の変更や追加が困難となる現実を勘案して、(判例により)認められているのが「債務引受」という概念です。すなわち、従来の債務者が負担している債務を、第三者が引き受けることによって債務者が交代する、又は連帯債務者として債務者に加わるという考え方で、債務者が交代する形態を「免責的債務引受」、連帯債務者が追加される形態を「重畳的債務引受」と言います。

 「債務引受」も、基本的に債権者と債務引受人との債務引受契約によって成立しますが、「要物契約」である金銭消費貸借契約とは異なって「諾成契約」とされ、金銭の交付を伴なう必要がないことから、事後的に容易に債務者の変更・追加等が可能です。

 したがって、質問の場合も、ローン契約自体がAさんの単独債務であったとすれば、Bさんと重畳的債務引受契約を締結し、抵当権についても、Bさんを連帯債務者として追加する変更契約をしたうえで、こうした実体関係を反映した抵当権の変更登記をなすべきと考えます。

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