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《テーマ20》抵当更地への建物新築抵当更地への建物新築

 自営業を営むAさんへの融資の担保として、Aさん所有の宅地(更地)に抵当権の設定を受けていますが、先日、その宅地で建物新築工事が進められているのを発見しました。
 対応を検討していたところ、今般、Aさんから「あの宅地を住宅の敷地としてBさんに貸すことにしたので、同意して欲しい」旨の申し入れがありました。

1.法定地上権

Bさんの住宅が完成した場合、法定地上権の問題は生じませんか?

法定地上権が成立する余地はありません。

 土地に抵当権を設定した場合に、その土地上の建物について法定地上権が成立するには、最低限
@土地に抵当権を設定する時点において、土地上に建物が存在すること
A土地と建物が同一の所有者に属すること

が要件となります。

 質問の場合は、もともと更地を担保に徴したわけですし、建物の所有者も別人ですから、法定地上権の成立する余地は全くありません。

 なお、現在は更地でも抵当権設定当時には土地上に建物があり、後に建物が取り壊されたといったケースでは、法定地上権が成立する可能性もありますので、注意してください。

2.拒絶する場合の対応

Aさんの申し入れを拒絶する場合、どのように対応すべきですか。

土地・建物の一括競売を申し立てることになるでしょう。

 金融機関の抵当権設定契約書には、通常「抵当権設定者は、抵当権者の承諾なしには、抵当物件の現状変更や譲渡・権利設定等は行わない」旨の条項があります。

 ただし、こうした約定には債権的効力しかなく、約定に反した行為が無効になるといった効力(物権的効力)はありませんが、債権的効力がある以上、約定違反を理由に期限の利益を喪失させるとか、損害賠償を請求するといった ことはできます。したがって、質問の場合も、貸金について期限の利益を喪失させ、抵当権を実行することは可能です。

 しかし、抵当土地上に建物が建てられることによって、土地の担保価値は大幅に下落してしまいますから、抵当権を実行して土地を競売にかけても、満足するような価格で売却することは困難でしょう。そこで認められているのが、一括競売の制度です。

 すなわち、民法は「更地に抵当権を設定した後に、その土地上に建物が建てられた場合は、土地の抵当権者は、土地とともに(抵当権が設定されていない)建物も一括して競売に付すことができる」旨を定めているのです。つまり、土地とその土地上の建物を一緒に同一人が買い受けることになれば、土地は本来の(更地の)評価額で売却されることになり、抵当権者が損害を回避できるということです。

 こうした一括競売は、従前は抵当土地と建物の所有者が同一人の場合にだけ認められていたものですが、近時の民法改正で、建物の所有者が別人の場合でも一括競売が可能となり、抵当権者の保護が強化されました。したがって、質問の場合も、Aさんの申し入れを拒絶するとすれば、基本的に、この一括競売の制度を利用することになるでしょう。

 ただし、当然のことですが、土地と建物を一括して競売しても、抵当権者が配当を受けることができるのは、(更地の評価をされた)土地の売却代金についてだけです。

3.応じる場合の法律関係

Aさんの申し入れに応じるとすれば、法律関係はどうなりますか?

抵当土地にBさんの借地権が設定されることになります。この借地権は基本的に抵当権に劣後する権利ですが、一定の手続を経ると抵当権に優先する借地権にもなり得ますので、注意してください。

 住宅用の敷地として土地を賃貸した場合は、借地借家法の適用を受ける借地権が設定されたことになり、その存続期間は最低でも30年となります。そして、この土地に対する借地権は(賃借権自体を)登記しなくても、土地上の建物の登記さえすれば、対抗要件が備わります。

 もっとも、質問の場合は、先に土地について抵当権の設定登記がなされていますから、借地権の対抗要件が備わっても、抵当権には劣後する(対抗できない)借地権ということになり、抵当権が実行され土地が落札された場合は、買受人はBさんに対して建物を撤去するよう請求できます。

 ただし、近時の民法改正により、こうした本来抵当権に劣後する借地権が抵当権に優先する、つまり、抵当権が実行された場合でも借地権が保護される道が開かれました。すなわち、土地に対する賃借権自体を登記したうえで、その「賃借権より先に登記されている抵当権者が、賃借権が抵当権に優先することに同意した」旨の登記をすることによって、抵当権が実行された場合でも賃借権は影響を受けないものとされたのです。

 この新たな制度は、抵当権者とって大きな危険性も孕んでいますから、金融機関としてもよく理解しておく必要がありますし、抵当不動産について賃借権設定の同意を求められた場合は、このことを念頭においてして対処すべきと考えます。

 したがって、質問の場合も、後日のトラブルを避けるためにも、単に抵当不動産の賃貸についての承諾を求めているのか、賃借権が抵当権に優先することについての同意までを求めているのかを、一応確認しておく必要があるでしょう。

4.債権保全策

Aさんの申し入れに応じる場合、債権保全面ではどのような対応が考えられますか。

追加担保の徴求や、土地の賃料債権の譲渡・質入などが考えられます。

 Aさんの申し入れの趣旨が、単に賃貸に対する同意を求めているのだとしても、既に建物が建て始められている以上、それを中止させることは困難ですから、結局は認めざるを得ないのが現実でしょう。問題は債権保全上懸念がある場合です。

 もちろん、他に担保価値のある不動産があれば、それを追加担保として徴することが望ましいのは言うまでもありません。しかし、そうした追加担保物件がない場合、抵当土地の担保評価下落分をカバーできるのは、その抵当土地からあがる収益、すなわちBさんから支払われる賃料しかありません。

 したがって、土地の賃貸によってAさんが取得する賃料債権について、(Bさんの承諾を得たうえで)一定の期間債権譲渡を受けるとか、同債権に質権を設定させてもらうといった方法を検討してはどうでしょう。

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