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不動産の直接移転取引

 Aさんから住宅建築費と敷地の取得費を対象とする住宅ローンの申込みがありました。
 Aさんは敷地を不動産業者X社から購入すると言っていますが、同敷地の登記簿上の所有者はYさん(個人)となっているので、X社に確認したところ、Aさんとの売買契約はAさんとX社間で締結するが、所有権自体はYさんからAさんに直接移転する「直接移転取引」を活用するとのことです。

1.「直接移転取引」とは

「直接移転取引」とは何ですか?

例えば、現在の所有者(売主)甲、中間の買主乙、最終買主丙の三者がいる場合に、売買契約は甲・乙間、乙・丙間でそれぞれ別個に締結されるが、所有権自体は甲から丙に直接移転するという取引形態です。

   甲 → 乙 → 丙

 甲名義の不動産を買った乙がその不動産を丙に転売する場合は、通常、乙が一旦不動産の所有権を取得し、乙名義の所有権移転登記を経由した上で、丙に所有権を移転します。
しかし、既に転売先が決っている場合など、近い将来、最終買主への所有権移転が確実なケースにおいては、(二重の)所有権移転手続を簡略化した方が望ましいことがあります。

 こうした場合、売買契約は甲・乙間、乙・丙間でそれぞれ締結しても、不動産の所有権自体は、売主甲から最終買主丙に直接移転させることが可能で、これを「直接移転取引」と言います。

 この「直接移転取引」は、登記手続とも密接な関係があることから、法務省からの通知等もあり、
1.甲・乙間における売買契約後も最終買主(丙)が確定するまで、所有権は甲に留保される形態の、「第三者のためにする契約」方式と
2.乙が買主の地位を最終買主(丙)譲渡する形態の「買主の地位譲渡契約」方式の2つが提示されています。

2.「中間省略登記」との違い

俗に言う「中間省略登記」と「直接移転取引」とはどう違うのですか?

「中間省略登記」とは、所有権移転(物権変動)が複数回あったにもかかわらず、登記については中間の所有権移転を省略して、1回の所有権移転しか無かったような登記をすることを指すのに対し、「直接移転取引」の場合はそもそも1回の所有権移転しか発生しない取引形態です。

 「中間省略登記」とは、例えば、甲名義の不動産を乙が買って所有権を取得し、その不動産を更に丙が乙から買って所有権を取得した場合のように、所有権の移転(物権変動)が2回あったにもかかわらず、登記上は甲から丙への所有権移転がなされる場合、すなわち、乙への所有権移転登記が省略される場合を言います。

 不動産登記制度では、物権変動の結果だけでなく、その過程も忠実に公示すべきものとされていますので、物権変動の過程を省略した登記は、実体関係と異なる虚偽の事実を公示したものとして違法であり、判決による登記など一部の例外を除いて認められていません。

 一方、「直接移転取引」の場合は、後述のように、売買契約は2度なされても、所有権移転(物件変動)は1回しか発生しません。したがって、所有権移転登記も当然1回しか必要ないことになり、実体関係と登記との整合性がとれていますから、「中間省略登記」とは異なり、違法性はありません。

3.「第三者のためにする契約」方式

「第三者のためにする契約」方式とはどのようなものですか?

民法上認められている「第三者のためにする契約」という契約形態と「他人物売買」という契約形態を複合的にを活用する方式です。

 (1)まず、「第三者のためにする契約」とは、民法上明文の規定がある契約形態で、契約の当事者の一方が、当事者以外の第三者に対してある給付をするという内容の契約です。
 例えば、夫が保険会社と生命保険契約を締結し、妻を保険金の受取人にする場合をイメージしてみてください。こうした保険契約においては、保険契約の当事者は夫と保険会社であり、掛金を保険会社に支払うのは夫ですが、契約の一方の当事者である保険会社は、契約の当事者ではない妻(第三者)に保険金を支払う義務を負いますから、典型的な「第三者のためにする契約」のパターンと言えます。
 民法上の「第三者のためにする契約」においては、上記保険契約の夫に当たる者を「要約者」、妻への給付義務を負う保険会社に当たる者を「諾約者」、保険金受取人である妻に当たる者を「受益者」と呼びます。そして民法上、受益者の権利は、受益者が諾約者に対して受益の意思表示(給付を受けるという意思表示)をしたときに発生します。
〔(注)便宜上、保険契約を例にとりましたが、保険契約に関しては商法に「他人のためにする保険」という明文の規定があり、正確には民法上の「第三者のためにする契約」と類似する契約と言うべきでしょう。また、商法上の「他人のためにする保険」においては、受取人による受益の意思表示が不要とされている点も「第三者のためにする契約」とは異なります。〕

 

 (2)一方、「他人物売買」とは、「他人の権利を売買の目的とした場合は、売 主はその権利を取得して買主に移転する義務を負う」旨の民法の規定に基づいた契約形態です。
 つまり、将来的に現所有者から権利を取得する前提で、他人の所有物を売るという売買契約も認められるということです。そして、法文上は「売主はその権利を取得して買主に移転する」となっていますが、売主は必ずしも一旦現所有者から権利を取得したうえでこれを買主に移転する必要はなく、現所有者との契約により、現所有者から直接買主に権利を移転させても、他人物売買は成立すると解されています。

 

 このような2つの契約形態を不動産の「直接移転取引」に応用したのが「第三者のためにする契約」方式です。この方式では、

@まず、不動産の売主甲を諾約者、中間買主乙を要約者、未だ特定していない最終買主(丙)を受益者として、甲・乙間で不動産の売買契約を締結します。
 この契約には、、

ア.売買代金は乙が甲に支払うが、所有権自体は甲から最終買主(丙)に直接移転する旨
イ.後に乙が最終買主(丙)を指定し、丙が甲に受益の意思表示をすることと、乙が甲に売買代金を支払うことを条件に、所有権が甲から丙に移転する旨
ウ.それまで、所有権は甲に留保される旨
   が特約として盛り込まれます。

A 次に、最終買主丙が特定した段階で、乙と丙が不動産の売買契約を締結します。
 この時点で不動産の所有権は甲に留保されていますから、この売買契約は前述の「他人物売買」契約ということになります。
 そして、この契約には、
ア.乙は、甲・乙間の契約に基づき、甲から丙に直接所有権を移転させることによって義務を履行する旨
イ.甲・乙間の契約に基づき、丙が甲に対して受益の意思表示をすること、丙が乙に対して売買代金を支払うことを条件に、所有権が甲から丙に移転する旨
が盛り込まれます。

 以上のような二つの契約が締結され、乙が甲に受益者(最終買主)として丙を指定する旨を通知し、また、丙が甲に受益の意思表示をしたうえで、甲・乙間、乙・丙間の代金決済がなされると、目的不動産の所有権が甲から丙に移転することになります。
 これが「第三者のためにする契約」方式による直接移転取引の概要です。やや、複雑な取引形態ですが、後述の「買主の地位の譲渡」方式が不動産取引実務上、利用しにくいことから、直接移転取引の多くはこの「第三者のためにする契約」方式を用いているようで、質問の直接移転取引もこの方式によるものと思われます。、

4.「買主の地位の譲渡契約」方式

「買主の地位の譲渡契約」方式とはどのようなものですか?

売買契約の買主が、(対象不動産そのものではなく)買主としての地位を第三者に譲渡する方式です。

 この方式は、「第三者のためにする契約」方式と比べるといたって単純です。すなわち、売主甲と買主乙が目的不動産について売買契約(所有権移転の時期を売買代金支払時等とする特約付き)を締結し、その売買契約が履行される前(代金支払や引渡しの前)に、乙が最終買主丙に、甲・乙間における売買契約の買主の地位を譲渡するというものです。

 この場合、乙・丙間の取引はあくまで「買主としての地位」の譲渡であり、不動産ではありません。また、甲・乙の売買契約が履行される前に乙が丙に買主の地位を譲渡するわけですから、譲渡について売主甲の承諾等を要するものと解されますが、その後は甲と丙が売買契約の当事者となります。

 したがって、当然のことながら、契約が履行されると、目的不動産の所有権は甲から丙に移転することになるのです。ただし、この方式においては、甲に不動産の売買代金を支払う不動産の買主は丙です。したがって、乙・丙間の「買主の地位の譲渡」が売買によるものだとすると、不動産の価格とは別に「買主の地位」の価格という概念が必要になります。このため、不動産取引の実務上、この「買主の地位」の売買という取引が成立しにくいのは想像に難くないでしょう。

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