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《テーマ23》株式会社における利益相反取引と根抵当権

 Aさんが代表取締役を務める(株)甲工務店に融資した事業資金の担保として、甲工務店所有の不動産に根抵当権の設定を受けていますが、先般、Aさんの長男Bさんを代表取締役とする(株)乙興業が設立されました。  乙興業は工務店としての事業の他、不動産取引や不動産の賃貸・管理など、甲工務店よりも幅広い事業を展開する予定で、Aさんとしては、甲工務店の事業も次第に乙興業に移し、近い将来(株)甲工務店は解散したいので、今後の借入金だけでなく、既存の借入金の名義も乙興業に変えたいとのことです。  当行としては、甲工務店に対する既存の融資を乙興業に債務引受してもらうことや、根抵当権の債務者に乙興業を追加することを条件に、Aさんの意向に沿いたいと考えていますが、上司から、利益相反取引に注意するよう指示されました。  なお、Bさんは甲工務店の(代表権のない)取締役を兼ねており、Aさんは乙興業の(代表権のない)取締役を兼ねています。  また、両社とも、取締役会は設置されていません。

1.利益相反取引とは

株式会社における利益相反取引とは、どのようなものですか?

(1)取締役(または取締役が代表者である会社等)と会社が取引をする場合
(2)会社が取締役の保証人や物上保証人となる場合など、会社が第三者との間で、取締役のために会社の不利益になる取引をする場合

を言います。

株式会社の取締役には、基本的に会社の業務執行権があります。また、業務執行権を持たない取締役であっても、取締役会における議決権や業務執行権を有する取締役(代表取締役等)の選定権などを通じて、会社の意思決定に参画できる立場にあります。

このため、取締役と株式会社が何らかの形で利害の対立する取引を行う場合、取締役がその地位を利用し、会社の利益を犠牲にして自己や第三者の利益を図る虞があり、こうした取締役と会社の利害が相反する行為を利益相反取引といいます。

このような利益相反取引は、会社の利益、ひいては株主等の利益を害する危険性があるため、何らかの形で規制する必要があります。そこで、会社法は、取締役と株式会社の利害が対立する可能性がある一定の取引については、株主総会の承認(取締役会設置会社の場合は取締役会の承認)を受けなければならない旨を規定し、会社や株主等の保護を図っています。

会社法が規制している利益相反取引の形態は次の二つです。
(1)一つは「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」です。
  例えば、Q株式会社が取締役X所有の不動産を買う場合を考えてみてください。Q社とすれば、少しでも安く買うのが望ましいのですが、X個人とすれば少しでも高く売った方が自分の利益になります。このように「取締役が自己のために株式会社と取引をしようとするとき」に当たる利益相反取引の形態を「直接取引」といいますが、同様のことは、Q株式会社がXが代表者であるR株式会社所有の不動産を買う場合にも当てはまります。
  すなわち、XはX個人としてではなく、R社の代表者としてQ社と取引するのですが、Xが代表者であるR社とQ社の利害が対立し、Q社の利益が犠牲になる虞がある点では、Xと取引するも、R社と取引するも大差は無いからです。
  したがって、こうしたケースも同様に「直接取引」に当たり、「取締役が第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」として会社法において規制されているのです。

(2)もう一つは「株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき」です。
  会社が、取締役の個人的な債務の保証人となったり、取締役の個人的な債務の担保として会社の不動産を提供したりする場合が、その代表例ですが、会社が取締役の債務を債務引受する場合などもこれに含まれます。保証契約や担保権の設定契約も、また、債務引受契約も、契約の当事者は会社と取締役の債権者であり、(1)のように会社と取締役が直接取引をするわけではありませんから、こうした利益相反取引の形態を「間接取引」といいます。
  また、取締役個人の債務について保証等を行う場合だけでなく、取締役が代表を努める会社の債務について保証等をする場合、例えば、Q株式会社の取締役XがR株式会社の代表取締役である場合において、Q社がR社の債務を保証する場合等も、この「間接取引」に当たるものと解されています。

2.何が利益相反取引にあたるのか?

このケースでは、何が利益相反取引になりますか?

1.乙興業が甲工務店の債務を引き受ける行為、2.根抵当権の債務者に乙興業を加える行為、が利益相反取引に該当します。

 (1)乙興業の取締役であるAさんは、甲工務店の代表取締役です。このため、乙興業が、Aさんが代表取締役を務める甲工務店の債務引受をすることは、〔A2〕の(2)で述べたように会社法が規制する「間接取引」に該当し、利益相反取引となります。

 (2)また、根抵当権の債務者に乙興業を追加するには、根抵当権者と根抵当権設定者である甲工務店が根抵当権の変更契約を締結し、これまでは債務者が「株式会社甲工務店」のみとなっていた根抵当権に、新たな債務者として「株式会社乙興業」を加えることになりますが、乙興業の代表取締役であるBさんは、甲工務店の取締役です。

 

 そして、根抵当権の債務者に「株式会社乙興業」を追加することによって、根抵当権は(新たに)乙興業の債務も担保する根抵当権に変わりますから、この根抵当権の債務者の追加は、甲工務店が乙興業のために担保提供することを意味します。したがって、この根抵当権の変更契約は、やはり会社法が規制する「間接取引」に該当し、利益相反取引となります。

3.取るべき対応

利益相反取引に当たるとすれば、どのような対応が必要ですか?また、必要な対応を怠った場合は、どうなりますか?

甲工務店の株主総会と乙興業の株主総会において、それぞれ、利益相反取引についての承認を受ける必要があります。株主総会の承認を受けずに債務引受や根抵当権変更契約がなされた場合は、これらの法律行為が無効とされる可能性があります。

 会社法は、取締役と株式会社との利益相反取引については、「株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)において、その承認を受けなければならない」と規定しています。したがって、1.乙興業が甲工務店の債務引受をすることについては、乙興業と取締役Aさんとの利益相反取引となりますから、乙興業の株主総会を開催し、債務引受契約について承認を受ける必要があります。

 また、2.甲工務店所有の不動産に設定された根抵当権の債務者に、乙興業を加えることは、甲工務店と取締役Bさんとの利益相反取引となりますから、根抵当権変更契約については、甲工務店の株主総会で承認を受ける必要があります。

 株主総会等の承認を受けずになされた、利益相反取引たる間接取引の効力については、一般に、相対的無効と解されています。つまり、原則として無効ではあるが、(善意の第三者を保護する観点から)第三者との関係においては、会社は、その第三者の悪意を証明しなければ無効を主張できないということです。

 したがって、仮に株主総会の承認を受けないまま債務引受契約や根抵当権変更契約が締結されたとしても、一応、甲工務店や乙興業は、貴行(債権者・根抵当権者)の悪意を証明しなければ、契約の無効を主張できないということになるのです。

 しかし、一方で、金融機関であれば金融法務のプロとして、利益相反取引についても十分な知識を有するのが当然と社会的には評価されるでしょう。このため、金融機関が利益相反取引を認識しなかったとか、株主総会における承認の確認を怠ったとかいうことになると、「重過失」として悪意と同様にみなされる可能性があり、債務引受契約や根抵当権変更契約が無効とされる虞があると考えます。

 なお、株主総会の承認は事後承認(追認)でも差し支えないと解されていますので、万一、株主総会等の承認を受けないまま利益相反取引となる契約が締結された場合は、速やかにその承認を受けるよう求めるべきでしょう。

4.必要な登記手続

どのような登記が必要になりますか?

根抵当権の債務者変更の登記、根抵当権の被担保債権の範囲の変更の登記が必要となります。

 質問の債務引受や根抵当権の債務者変更を登記に反映させるには、まず、現在「甲工務店」となっている根抵当権の債務者を「甲工務店」「乙興業」に変更します。

 また、根抵当権の被担保債権の範囲は、現在「銀行取引・手形債権・小切手債権」となっているでしょうが、これに乙興業による(免責的)債務引受を反映させるには、被担保債権の範囲に債務引受にかかる債権を特定債権として加えることになります。

 具体的には、根抵当権の債権の範囲を「債務者株式会社甲工務店につき銀行取引・手形債権・小切手債権」「債務者株式会社乙興業につき銀行取引・手形債権・小切手債権・年月日債務引受(旧債務者甲工務店)にかかる債権」に変更します。

 なお、この債務者変更の登記と債権の範囲の変更登記は、同時に1個の登記申請で行うことができます。また、この登記申請書には、利益相反行為について株主総会の承認を受けたことを証するため、甲工務店と乙興業の株主総会議事録を添付する必要があります。

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